ぶんのさいごにある書きうつした人からのおしらせをよんでください。

ユール・ログをかこんで
ノルウェーのクリスマス
さく
P・C・アスビョルンセン
ほんやく H・L・ブレクスタ

ボストン デイナ・エステス社 しゅっぱんしゃ
エステスとローリアットによる
すべてのけんりはまもられています
コロニアルいんさつ
C・H・シモンズ&Co. がいんさつしました。
アメリカ マサチューセッツ州 ボストン
[5ページ]
ユール・ログをかこんで。
わたしのまどのむかいにある、ふるい木々のあいだを、かぜがビュービューとふきぬけていました。どうりにはゆきがふきつけ、空はまっくらです。ここはクリスチャニアという町で、十二月の空はとてもくらかったのです。わたしのきもちも、その空とおなじようにくらくなっていました。その日はクリスマスイブでした。あたたかいだんろのある家からはなれてすごす、はじめてのクリスマスイブです。わたしはさいきん、ぐんたいですこしえらくなりました。だから、このお休みに家に帰って、年をとったお父さんとお母さんをよろこばせてあげたかったのです。それに、じぶんのりっぱなすがたを、村の女の人たちに見せたいとも思っていました。でも、ねつを出してびょういんに入ってしまったのです。びょういんを出たのは、やっといっしゅうかんまえのことでした。今は、びょうきがだんだんよくなってきているところです。わたしは家に手紙を書きました。「馬とそりと、お父さんのけがわのコートをとどけてください」と。でも、その手紙がわたしの家につくのは、クリスマスの次の日ごろでしょう。馬がこの町にやってくるのは、お正月の前の日よりもあとになってしまうのでした。
わたしのともだちは、みんな町を出ていきました。お休みのあいだ、いっしょにすごせるかぞくもいませんでした。わたしがとまっていたおうちには、としをとった女の人がふたりいました。とてもしんせつでやさしい人たちで、わたしが病気になったときは、いっしょうけんめいおせわをしてくれました。でも、この女の人たちのかんがえかたやくらしかたはすこし古くて、わかいわたしにはあまりおもしろくありませんでした。ふたりはいつも昔のことばかりかんがえていました。そして、よく町のことや、人たちのくらしのむかしばなしをしてくれました。そのお話のないようも、やさしい話し方も、わたしにずっと昔の時代を思い出させました。[Page 6]

その女の人たちと、その人たちがすんでいるお家は、ふんいきがとてもよくにていました。そのお家は、「カスタム・ハウス通り」というところにある古い家でした。まどは奥にあり、ろうかやかいだんは長くて暗く、へやも屋根うらも薄ぐらいのです。おばけやようせいが出てきそうだと思ってしまうほどでした。それは、モーリッツ・ハンセンという人が書いた「フードをかぶったおばあさん」というお話に出てくる、まさにあのお家だったかもしれません。ふたりに会いに来る人は、とても少なかったです。けっこんした妹とその子どもたちのほかには、お話があまりおもしろくない、としをとった女の人がふたり来るだけでした。このくらしの中でのたった一つの楽しみは、かわいいめいっ子と、その子の元気ないとこたちでした。その子たちはいつもわたしに、おとぎばなしや物語を話してと、おねがいするのでした。
わたしは、さびしくて、かなしい気もちをまぎらわそうと、窓(まど)から外(そと)をながめました。ゆきと風(かぜ)のなかを、はなをあおくして、めをほそめて、いったりきたりする人(ひと)たちがいました。道(みち)のむこうにある、おくすりやさんの店(みせ)のにぎやかなようすを見(み)るのは、たのしいことでした。店(みせ)のドアは、ほとんどしまることがありませんでした。おてつだいさんや、のうふの人(ひと)たちが、つぎつぎと入(はい)ったり出(で)たりしていました。そして、そとに出(で)てから、びんのラベルや、つかいかたをじっと見(み)ていました。わかる人(ひと)もいるようでしたが、ながくかんがえこんで、くびをかしげる人(ひと)もいて、むずかしそうでした。だんだん、くらいゆうぐれになってきました。もう人(ひと)の顔(かお)は見(み)わけられなくなりましたが、わたしはふるい建物(たてもの)を見(み)つめていました。そのおくすりやさんの家(いえ)は、いまでも「はくちょう」とよばれています。くらくて、あかちゃいろのかべ、とがった屋根(やね)や塔(とう)、風見鶏(かざみどり)や格子(こうし)まどのついた、クリスチャン四世という王様(おうさま)の時代(じだい)の建物(たてもの)のようすをいまに伝(つた)えるものでした。その「はくちょう」は、いまも昔(むかし)も、首(くび)に金(きん)の輪(わ)をつけ、とげのあるブーツをはき、いまにも飛(と)び立(た)ちそうな羽(はね)を広(ひろ)げた、とてもりっぱで、おちついた鳥(とり)のように見(み)えました。わたしは、とらわれた鳥(とり)たちのことを考(かんが)えようとしたとき、となりのへやから、こどもたちのさわぐ声(こえ)や笑(わら)い声(ごえ)が聞(き)こえてきて、じゃまされました。そして、やさしい、おばあさんのようなノックの音(おと)がドアにしました。[Page 7]

わたしが「どうぞ」と入(はい)るようにお願(ねが)いすると、大家(おおや)さんの、年上(としうえ)のメッテさんという女(おんな)の人が、へやに入(はい)ってきました。[Page 8]昔(むかし)ながらのていねいなおじぎをして、わたしが元気(げんき)かどうかたずねてくれました。そして、かしこまらずに、今夜(こんや)はみんなのところに来(き)て、ゆっくりしていってほしいと誘(さそ)ってくれました。「くらいへやで、こうして一人(ひとり)でいるのは、あなたにとってよくありませんよ、親愛(しんあい)なる少尉さん。」と、メッテさんは言(い)いました。「さあ、いますぐわたしたちのところにいらっしゃいませんか?スカウおばあさんと、わたしの弟(おとうと)の小(ちい)さなむすめさんたちが来(き)ていますよ。きっと、あなたを少(すこ)しは楽(たの)しませてくれるでしょう。[Page 9]あなたは、かわいらしいこどもたちが、とてもお好(す)きですからね。」

わたしは、やさしいさそいをうけました。へやにはいると、おおきなしかくいストーブで、まきがもえさかっていました。そのひが、ひろくあいたドアから、おくふかいへやを、あかいゆらゆらしたひかりでてらしていました。へやは、ふるいかたちのものでかざられていました。せもたれがたかいロシアがわのいすや、ドレスをきるためのまっすぐなすわりごこちのながいすが、おいてありました。かべには、[Page 10]あぶらえがかざってありました。かみがしろいこなでかためられたかたいおんなのひとや、かつらをつけたオールデンボーグのひとたち、よろいやあかいコートをきた、りっぱなひとたちのえでした。
「しょういさん、まだろうそくをつけていなくて、ほんとうにごめんなさいね」と、シシリーおじょうさんがいいました。シシリーおじょうさんは、いもうとで、いつも「シリー」とよばれていました。わたしの方へきて、おねえさんそっくりに、おじぎをしました。「でも、こどもたちは、ゆうがたのうすぐらいじかんに、このひのまえでころころあそぶのが、だいすきなんです。それに、スカウおくさんも、だんろのそばでしずかにおしゃべりするのが、たのしいみたいなんです」
「あら、おしゃべりなんて、どこでもいいじゃない!シリー、あなただって、ゆうがたのうすぐらいじかんに、ちょっとしたうわさばなしをするのが、いちばんすきなんでしょう?そして、そのせいをわたしたちになすりつけるのね」と、みんながスカウおばさんとよぶ、ぜんそくもちのとしをとったおばあさんがこたえました。

「あら!こんばんは、だんなさま」と、おばあさんはわたしにいいました。じぶんのふくらんだおおきなからだを、できるだけりっぱにみせようと、せすじをのばしました。「さあ、ここにすわって、げんきにしているかおしえてちょうだい。でも、ほんとうに、あなたはほねと皮ばかりじゃないの!」
わたしは、じぶんのびょうきのことを、ぜんぶおばあさんに話さなければなりませんでした。そのかわりに、おばあさんの[Page 11]りゅうまちと、ぜんそくのびょうきのことを、とてもながくくわしく聞かされました。さいわいなことに、その話は、こどもたちが台所からさわがしくもどってきたことで、とちゅうでやめになりました。こどもたちは、台所で、このいえにずっといるスティーネおばあさんにあいにいっていたのです。
「おばさん、シュティーネがなんて言ったか知ってる?」と、ちいさなちゃいろいめのかわいい子がさけびました。「こんばん、いっしょにわらぐらへ行って、こびとにクリスマスのおかゆをあげようって言うの。でも、わたし行かない。こびとがこわいんだもん!」
「きにしないで、かわいい子。シュティーネは、あなたをからかっているだけだよ。あのこわがりのおばあさん、くらいわらぐらにはじぶんでは行けないんだからね。だって、むかし、じぶんもこびとにこわいおもいをしたのをよく知ってるんだから。」と、メッテさんが言いました。「でも、みんな、しょういさんに『こんばんは』って言わないの?」
「あっ、しょういさんだ!わからなかったよ。なんだか、かおがしろいね!ひさしぶりに会ったね!」と、子どもたちがみんなでいっせいにさけびながら、わたしのまわりに集まってきました。
「さあ、なにかとってもたのしいお話をしてよ!お話を聞くの、ひさしぶりだもんね。ねえ、しょういさん、キンポウゲのお話をしてよ。キンポウゲとゴールデントゥースのお話をして!」
わたしは、キンポウゲと犬のゴールデントゥースのお話をしました。でも、それだけではゆるしてくれませんでした。そこで、おまけに、ヴァーゲルとビューレのちいさなこびとたちのお話もしてあげました。そのこびとたちは、おたがいのわらをぬすんでいて、さいごには、わらをせおったまま出会って、わらのほこりのなかへきえるまでけんかしたのです。[Page 12]それから、ヘッセルベルクのちいさなこびとのお話もしました。そのこびとは、おうちの犬をからかって、お百姓さんが出てきて、こびとを納屋の橋の上から投げとばしたのです。子どもたちは、大よろこびで手をたたき、げんきにわらいました。

「わるいこびとには、ざまあみろだね!」と、子どもたちはさけんで、また別のお話をせがみました。
「よし、」とわたしは言いました。「それじゃあ、ペールギュントとトロルのお話をしてあげよう。」
むかしむかし、クヴァムというところに、ペールギュントという名前のかりゅうどが住んでいました。ペールギュントは、いつも山をあるきまわって、くまやヘラジカをさがしていました。そのころの山には、いまよりもたくさんの森があって、だから、たくさんのけものがいたのです。
ある日、クリスマスがくる少し前のことです。ペーターは旅に出ました。
ドーレフェルというところに、ある農家があると聞いていました。その農家には、クリスマスの前の晩になると、たくさんのトロルがやってくるのです。
だから、その家の人たちは、近所の家に避難しなければなりませんでした。
ペーターはそこへ行きたいと思いました。トロルに会って、やっつけられるかどうか試してみたかったからです。
ぼろぼろの古い服を着て、飼っていた白いクマを連れて行きました。それから、きり、松やに、ひもも持って行きました。
農家に着くと、中へ入って、「泊めてください」と頼みました。[Page 13]

「ああ、困った!」と、農家の人は言いました。「お泊めすることはできませんよ。[Page 14]わたしたちも、もうすぐこの家を出て、泊まる場所を探さなければならないのです。なぜなら、クリスマスの前の晩にはいつもトロルがここにやってくるからです。」
でもペーターは、トロルを追い出せるだろうと思いました。前にもそういうことをしたことがあったからです。それで、泊まることを許してもらい、おまけにブタの皮ももらいました。
クマは暖炉のうしろに寝転びました。[Page 15]ペーターはきり、松やに、ひもを取り出して、ブタの皮をぜんぶ使って、とても大きな靴を作り始めました。
靴をしっかり締められるように、強いロープをひもにしました。そして最後に、棒を二本持って準備しました。
しばらくすると、トロルたちがやってくる音が聞こえてきました。バイオリンを弾く人も一緒でした。
あるトロルはダンスを始め、またあるトロルはテーブルの上にあるクリスマスのごちそうを食べ始めました。それは、焼いたベーコンや、焼いたカエルやヒキガエル、そしてトロルたちが持って来たほかの気味の悪いものでした。
その間に、トロルたちの何匹かが、ペーターが作った靴を見つけました。とても大きな足の持ち主の靴に違いないと思いました。
みんな一度に履いてみたかったので、それぞれ足を入れました。でもペーターは急いでロープをきつく締め、棒の一本を取ってロープをそれに巻きつけました。そして最後には、トロルたちを靴の中にしっかり縛りつけることができました。
ちょうどそのとき、クマがねていただんろのうしろから、はなをだしました。なにかをいためているにおいがしたのです。
「ねこちゃん、ソーセージをたべるかい?」と、トロールのひとりがいいました。そして、あついカエルをクマのくちのなかに、ぽいっとなげこみました。
「ねこちゃん、やつらをひっかいておやり!」と、ピーターがいいました。
クマはとてもおこって、トロールたちにおそいかかり、からだじゅうをひっかきました。ピーターはもういっぽうのてこぼうをもち、トロールたちを、あたまをこわしてしまうかのようにたたきました。トロールたちは、とうとうにげていきました。でも、ピーターはのこって、クリスマスのおいしいごちそうを、まるまるいっしゅうかんたのしみました。そのあと、トロールたちは、なんねんものあいだ、そこにはあらわれませんでした。
なんねんかたったあと、クリスマスのころ、ピーターはおやすみのためのおきぎをきるために、もりへでかけていました。すると、トロールがピーターのところにきて、さけびました。

「おまえのあの、おおきなねこは、まだいるのかい?」[Page 16]
「ああ、はい!あの子は、だんろのうしろのいえにいますよ」と、ピーターはいいました。「それに、あの子には、じぶんよりももっとおおきなこねこが、ななひきもいるんですよ」
「それなら、もうきみのところには、ぜったいにいかないよ」と、トロールはいいました。そして、ほんとうに、もうこなかったのです。
こどもたちはみんな、このおはなしにとてもよろこびました。
「もうひとつ、おはなしをして、しんあいなるしょういさん!」と、みんなでいっせいにさけびました。
「だめよ、だめよ、こどもたち!しょういさんをこまらせすぎよ」と、シシリーおじょうさんがいいました。「メッテおばさんが、いまからおはなしをしてくれるわよ」
「うん、してして、おばさん、して!」と、みんながいっせいにさけびました。
「なにをおはなししようか、はっきりとはわからないけれど」と、メッテおばさんがいいました。「でも、こびとさんたちのおはなしをしはじめたのだから、こびとさんたちのおはなしを、あなたたちにもしてあげようとおもいます。あなたたちは、もちろん、ふるいカリ・ガウスダールさんをおぼえていますね。ここにきてパンをやいてくれた、そして、いつもたくさんのたのしいおはなしをしてくれた人です」[Page 17]
「ああ、はい、はい!」と、こどもたちはさけびました。
あのね、おばあさんのカーリさんがね、おしえてくれたの。むかし、こどもたちがすむいえ(ようごしせつ)ではたらいていたんだって。そのころは、いまよりもっと、まちのそのへんはさびしくて、くらいところだったんだって。そのいえはね、くらいしずかなところだったんだよ。さて、カーリさんがそこへきたとき、りょうりをつくるひとだったの。とてもかしこくて、じょうずなひとだったんだ。あるひ、カーリさんは、あさとてもはやくおきて、おさけをつくるしごとをしなくちゃいけなかったの。すると、ほかのひとたちがカーリさんにいったんだ。

「『あまりはやくおきないほうがいいよ。2じになるまえは、おなべの下にひをつけちゃだめだよ。』」
「『どうして?』と、カーリさんはききました。」
「『ここにブラウニーがいるのをしらないの?あのひとたちは、そんなにはやくおこされるのがきらいなんだよ』と、みんなはいったんだ。『だから、2じになるまえは、ぜったいにひをつけちゃだめだよ。』」
「『それだけ?』と、カーリさんはいったよ。カーリさんは、ぜんぜんこわがらないひとだったんだ。『わたしは、あなたたちのブラウニーなんて、かんけいないわ。もしわたしのおじゃまをするなら、きっと、とびらをこえて、ひっくりかえしてやるわ!』」
ほかのひとたちはカーリさんにちゅういしたけれど、カーリさんはすこしもきにしなかったよ。つぎのあさ、とけいが1じをうつとすぐに、カーリさんはおきて、おさけをつくるいえのおなべの下にひをつけました。でも、ひはすぐにきえてしまったんだ。だれかがまきのきれはしをいろりのまわりにほうりなげているようだったけれど、だれだかカーリさんにはみえなかったよ。カーリさんは、まきのきれはしをひとつずつあつめたけれど、だめだったんだ。えんとつも、けむりをすいこんでくれなかったよ。カーリさんは、ついにいやになって、もえているまきのきれはしをひとつとって、へやじゅうをかけまわったんだ。それをたかくあげたり、ひくくしたりしながら、『もといたところへかえりなさい!わたしをおどかせるなんておもったら、まちがいよ!』とさけびました。『このやろう!』と、だれかがくらいかたすみで、ひそひそとさけんだよ。『このいえには、いままで7にんのたましいがいたんだ。ぜんぶで8にんになるはずだったのに!』『でも、それからというもの、だれもそのいえでブラウニーをみたりきいたりすることはなかったんだ』と、カーリガウスダールさんはいったよ。[Page 18]
「こわくなってきたよ!」と、こどもたちのひとりが言いました。「だめだよ、もっとおはなしをしてよ、しょういさん。しょういさんがおはなしをしてくれると、ぜんぜんこわくないんだ。だって、いつもたのしいおはなしをしてくれるからね。」べつのこどもが、「ブラウニーがハリングダンスをラッシーといっしょにおどったおはなしをしてほしいな」といいました。そのおはなしは、うたをうたうところがあったので、わたしはあまりすきではありませんでした。でも、こどもたちはどうしてもゆるしてくれません。わたしは、のどをならして、じまんできないへたなこえで、そのおはなしのハリングダンスをうたおうとしたときでした。まえにおはなしした、かわいいめいっこがへやにはいってきました。こどもたちはとてもよろこび、わたしもたすかりました。
「さあ、かわいいみんな、リジーおねえさんがハリングのうたをうたってくれるなら、おはなしをしてあげようね」と、わたしは、めいっこがすわったときに言いました。「それから、みんなでダンスをおどるんだよ、いいかい?」
リジーおねえさんは、こどもたちに「うたって!うたって!」と、たくさんたのまれました。そして、うたうことをやくそくしてくれました。そこで、わたしはおはなしをはじめたのです。

むかしむかし、あるところに、ハリングダールという村だったと思いますが、一りの女の子がいました。[Page 19]その子は、屋根裏の干し草の部屋に、ブラウニーという妖精のために、クリームが入ったおいしいおかゆを持っていくように言われました。それが木曜日だったか、クリスマスの前の晩だったか、思い出せませんが、たぶんクリスマスの前の晩だったと思います。さて、その女の子は、「こんなおいしいものをブラウニーにあげるのはもったいないな」と思いました。だから、おかゆを自分で全部たべて、とけたバターも残さずたべてしまいました。そして、かわりに豚のえさ入れに、ただのオートミールのおかゆとすっぱいミルクを入れて、干し草の部屋へ持っていきました。「さあ、これで十分でしょう、ブラウニーさん」と彼女は言いました。でも、その言葉を言い終わるか終わらないうちに、ブラウニーが彼女の前に立ちました。彼女の腰をつかんで、息が苦しくなるまで、ずっと踊り続けました。朝になって、みんなが干し草の部屋に来たとき、彼女は生きているのがやっとという状態でした。「でも、踊っている間ずっと、ブラウニーは歌っていました」(そして、いとこのリジーがブラウニーの役になって、ハリングの曲で歌いました)
わたしは、足で床をどんどん踏みならして、拍子を取るのを手伝いました。その間、子供たちは大声で楽しそうに、部屋の中をはしゃぎまわっていました。
「みんな、お家をひっくり返しちゃいそうだよ!」[Page 20]と、おばあさんのスカウさんが言いました。「もし静かにしたら、お話をしてあげましょうね」
子供たちはすぐに静かになりました。そして、スカウおばあさんは、次のように話し始めました。

「みんなは、ブラウニーやようせいたちのことをよく聞くでしょう。でも、わたしはそんなもの、あまり信じていません。わたしは、どちらも見たことがありませんからね。もちろん、わたしはこれまで、あまりいろいろな所へ行ったわけではありませんが、ぜんぶ嘘だと思っています。でも、台所にいる年寄りのスティーネさんは、自分はブラウニーを見たことがあると言います。私が大人の仲間入りをしたころ、彼女は私の両親の家で働いていました。彼女は、船乗りをやめた船長さんの家から来たのです。そこはとても静かな場所でした。船長さんは、毎日波止場までしか散歩しませんでした。みんなはいつも早く寝ていました。人びとは、その家にはブラウニーがいると言っていました。ある晩のこと、スティーネさんと料理人さんが自分たちの部屋で、服を直したり繕ったりしていました。寝る時間が近づいていました。夜警さんがもう『10時だよ!』と叫んでいたからです。でも、なぜか繕い物や縫い物はとてもゆっくりとしか進みませんでした。しょっちゅう『眠気の妖精』が来て、二人にいたずらをしていたのです。ある時はスティーネさんがこっくりこっくりと居眠りをして、次は料理人さんの番でした。ふたりとも目を開けていられませんでした。その朝は早くから起きて洗濯をしていたからです。でも、そうやって座っていると、台所の下の階で、ものすごい音がしました。スティーネさんは叫びました。『ああ、神様、お助けください!あれはきっとブラウニーだわ!』彼女はとても怖くて、ほとんど足を動かすこともできませんでした。でも、ついに料理人さんが勇気を出して台所へ降りて行きました。その後をスティーネさんがぴったりとついて行きました。[Page 21]台所のドアを開けると、お皿がぜんぶ床に落ちていましたが、どれも割れていませんでした。[Page 22]ブラウニーは大きな台所のテーブルの上に赤い帽子をかぶって立っていて、お皿を次から次へと床に投げつけては、[Page 23]とても楽しそうに笑っていました。料理人さんは、ブラウニーにとても静かな場所を教えてあげると、別の家に引っ越してくれることがあると聞いていました。彼女は長い間、このブラウニーにいたずらをしかける機会を待っていたので、勇気を出して彼に話しかけました。その時、彼女の声はすこしふるえていました。『向かいのブリキ職人さんの家に引っ越したほうがいいですよ。そこはとても静かで気持ちがいいですよ。なぜなら、毎日夜9時にはいつも寝てしまうからです。』これは本当のことでした。と、料理人さんは後でスティーネさんに話しました。でも、その家の主人と弟子たちはみんな、毎日朝3時に起きて、一日中カンカンと音を立てて仕事をしていたので、ものすごい騒音だったのです。その日から、船長さんの家ではもうブラウニーを見かけなくなりました。彼は、ブリキ職人さんの家で一日中カンカンと音を立てていても、すっかり落ち着いたようでした。でも、人びとは、その家の奥さんが毎週木曜日の晩に、屋根裏部屋にお粥を置いてあげていたと言っていました。だから、家にブラウニーがいて、彼らがうまくいって[Page 24]お金持ちになったのも不思議ではありません。スティーネさんは、ブラウニーが物を運んで来てくれたと信じていました。それが本当にブラウニーだったのかどうかは、わたしにはわかりません」と、スカウお母さんは最後に言いました。そして、彼女にとって珍しく長いこの話を語り終えると、せきこんで息が詰まりました。

かのじょは はなに いれる こなを すこし つかうと、きもちが よくなりました。まえのように げんきになって、はなしを はじめました。
「わたしのおかあさんは、じつは うそを いわない ひとでした。そのおかあさんが、このまちで クリスマスの まえの よるに おこった おはなしを してくれました。わたしは それが ほんとうだと しっていますよ。ははは けっして うそを いいませんでしたからね。」
「ぜひ きかせてください、スカウさん。」と、わたしは いいました。
「うん、おしえて、おしえて、スカウおかあさん!」と、こどもたちが さけびました。
かのじょは すこし せきをして、また はなに いれる こなを すこし つかいました。それから、はなしを つづけました。

わたしのおかあさんが、まだわかいころのおはなしです。おかあさんは、ときどきしっているおばあさんのいえにあそびにいきました。そのおばあさんは、ごしゅじんをなくしたかたでした。なまえは、ええと、なんというなまえだったかしら?ああ、そうそう、エヴェンセン夫人でした。エヴェンセン夫人は、もうとしをとっていましたが、とてもげんきなかたでした。でも、そのおばあさんが、ミル街のうえのほうにすんでいたのか、それともちいさな教会の丘のそばの角にすんでいたのかは、はっきりわかりません。さて、あるクリスマスイブのよるのことです。ちょうどこんばんのようなよるでした。エヴェンセン夫人は、クリスマスのお祈りの会に行こうと思いました。夫人はいつも教会に行くのが好きでしたから。それで、ねるまえに、おてつだいの女のこにコーヒーを用意しておいてもらいました。あさ、あたたかいコーヒーを飲めば、とても元気がでると思っていたからです。夫人が目をさますと、お部屋に月の光がさしこんでいました。とけいを見ようと起きあがると、とけいはとまっていて、針は11時半をさしていました。いまがなん時なのか、まったくわかりません。それで、まどに行って、向こうの教会を見ました。[Page 25]教会のすべてのまどから、あかりがもれていました。「たいへん、ねすごしてしまったわ!」夫人はそう思いました。おてつだいの女のこを呼んで、コーヒーを用意するように言いました。そのあいだに、夫人は服を着替えました。そして、夫人は賛美歌の本を持って、教会へ出かけました。道はとてもしずかで、教会へ行くまでに、だれにも会いませんでした。教会の中に入ると、夫人はいつもの席にすわりました。でも、まわりを見渡すと、そこにいる人たちがみんな、とても顔色がわるくて、へんに見えました。まるで、みんな死んでいるみたいでした。夫人は、だれも知りませんでした。でも、何人かの人は、まえにどこかで見たことがあるような気がしました。いつ、どこで見たのかは、どうしても思い出せませんでした。牧師さんが説教壇に上がってきました。その牧師さんは、この町の牧師さんではありませんでした。せが高くて、顔色のわるい男の人でした。でも、その顔は、どこかで見たことがあるような気がしました。牧師さんは、とてもじょうずにお話をしました。いつもクリスマスのお祈りの会では、ゴホンゴホンとせきをしたり、声をならしたりする音がします。でも、この日は、そんな音はまったくしませんでした。[Page 26]とてもしずかで、床に針がおちる音も聞こえそうなほどでした。あまりにしずかすぎて、夫人はなんだか落ちつかない気持ちになってきました。また歌がはじまると、夫人のとなりにすわっていた女の人が、夫人のほうに身をかがめて、みみにささやきました。「上着をかるく羽織って、すぐにここから出て行きなさい。もし、お祈りの会がおわるまでここにいたら、あなたも大変なことになってしまうわ。ここにいるのは、みんな死んだ人たちなのよ。」
「ああ、スカウおかあさん、こわいよ、こわいよ!」と、こどもたちのひとりが、しくしくないて、いすのうえによじのぼりました。

「しーっ、しーっ、おちついて!」と、スカウおかあさんがいいました。「あのひとは、ぶじににげられたんだから、きいてごらん!おばあさんが、となりのひとのこえをきいて、ふりむいてみました。すると、びっくり!そのひとは、むかししんでしまった、おばあさんのごきんじょさんだったのです。きょうかいのなかをみまわすと、ぼうさんや、ほかのひとたちも、みんなむかししんでしまったひとたちだと、おばあさんはおもいだしました。おばあさんは、からだがぞっとするほど、とてもこわくなりました。となりのじょせいがいうとおり、おばあさんはマントをかるくからだにまいて、いすからでました。でも、みんながおばあさんをふりむいて、てをのばしているようにかんじました。あしがふるえて、きょうかいのゆかにたおれてしまいそうでした。そとにでて、かいだんについたとき、マントをつかまれたようにかんじました。おばあさんはマントをはなして、そのままいそいでいえにかえりました[Page 27]。ドアについたとき、とけいが「いちじ」といいました。いえにはいるころには[Page 28]、おばあさんはこわくて、しんでしまいそうでした。あさになって、ひとびとがきょうかいにいくと、かいだんのうえにマントがおちていました。でも、それはこなごなにやぶれていました。わたしのおかあさんは[Page 29]、そのマントをまえによくみていましたし、やぶれたかけらもみたとおもいます。でも、それはたいせつなことではありません。そのマントは、みじかいピンクのウールのマントで、けがついていて、ふちどりもありました。わたしがこどものころには、まだみんながきていたものです。いまは、ほとんどみかけませんが、まちのおばあさんたちや、「ホーム」にいるおばあさんたちが、クリスマスにきょうかいできているのを、わたしはみたことがありますよ。」

お話のさいごのほうで、こどもたちはとてもこわがっていました。そして、「もうこんなこわいお話は聞きたくない」と言いました。こどもたちは、ソファやいすの上にのぼっていました。それでも、テーブルの下からだれかが足をひっぱっているようにかんじたのです。とつぜん、へやにあかりがつきました。すると、こどもたちがテーブルの上に足をのせているのが見えて、わたしたちはおかしくてたまりませんでした。あかりと、クリスマスのケーキ、ゼリー、タルトのおかげで、こわいおばけの話はどこかへ行ってしまいました。みんなの心からこわい気もちはなくなり、元気になりました。そして、おとなりさんのことや、その日のできごとについておしゃべりをはじめました。さいごに、クリスマスのあたたかいおかゆと、やいたお肉が出てきました。みんな、食べもののことを考えはじめました。わたしたちは早めに集まりをおわりにして、「メリークリスマス!」と言い合ってわかれました。しかし、わたしはその夜、なんだかおちつかずにねむれませんでした。こわい話のせいか、たくさん食べた夜ごはんのせいか、それともわたしの元気がなかったせいか、わかりません。たぶん、ぜんぶのせいだったのでしょう。わたしはベッドの中で、あっちへごろごろ、こっちへごろごろしました。そして一ばんじゅう、ブラウニーというようせいや、ようせいたち、おばけたちが出てくるゆめを見ました。とうとう、わたしは空をとんで、教会へむかいました。耳のそばでは、そりのすずがたのしそうになっていました。教会にはあかりがついていました。中に入ってみると、それはたににあるわたしたちの教会でした。[Page 30]そこには、あかいぼうしをかぶった村の人たちや、せいふくをきたへいたいさん、しろいずきんをかぶったほっぺのあかい村の女の人たちしかいませんでした。だんの上には、ぼくしさまがいました。それは、わたしが小さいころになくなった、おじいさんでした。ところが、おじいさんがお話のまん中で、とつぜんくるりとちゅうがえりをしたのです。おじいさんは、村でいちばん身がるな人としてゆうめいでした。ちゅうがえりをして、教会のまん中にちゃくちしました。きていた白いふくはあっちへ、えりはこっちへとんでいきました。「ぼくしはあそこにねころがって、わしはここだ」と、おじいさんはいつものちょうしで言いました。「さあ、みんなで春のおどりをしようじゃないか!」そのしゅんかん、教会にいた人たちはみんな、いっせいに元気よくおどりはじめました。せの高い大きな村の人がわたしのほうへやって来て、かたをつかんで言いました。「ぼうや、きみもいっしょにおどるんだよ!」
そのとき、わたしは目をさました。だれかがわたしの肩をひっぱっていました。わたしは、ゆめの中で見たのとおなじのうふが、わたしの顔をのぞきこんでいるのを見て、びっくりしました。その人は、赤いぼうしを耳まで深くかぶっていて、大きなけがわのコートをうでにかけ、大きな目でじっとわたしを見ていました。
「きみはゆめを見ているんだね」と、その人は言いました。「おでこには、おおきなあせのつぶがいっぱいだよ。クマさんが冬ごもりするみたいに、ぐっすりねむっていたね!かみさまのへいわと、たのしいクリスマスをきみに![Page 31]たににいるきみのお父さんや、みんなからのあいさつだよ。これはお父さんからの手紙だ。馬が庭で待っているよ」
「まあ、なんてことだ! トールじゃないか!」わたしは、とてもうれしくてさけびました。ほんとうに、お父さんのところで働く人、ノルウェーのりっぱなのうふでした。「いったいどうやって、もうここに来たんだい?」

「ああ!それはすぐに話せますよ」と、トールは答えました。「わたしは、あなたのお気に入りの、あかい毛のメス馬と来ました。お父さんをネスまでつれていかなければならなくて、そのときお父さんがわたしに言いました。『トール』と。『ここから町までは、そんなに遠くない。あのあかい毛のメス馬にのって、しょういさまが元気にしているか見に行ってくれ。もし元気で、いっしょに帰れるなら、連れて帰ってきてくれ』と、お父さんは言ったんですよ」
町を出たときには、もう昼間でした。道はとてもきれいで、走りやすかったです。あかい毛のメス馬は、じょうずな足をのばして、[Page 32]やっと、なつかしい家が見えるところまで来ました。トールはそりからとびおりて、門のとびらをあけました。わたしたちが楽しそうに門をくぐってすすむと、ローバーという年をとった犬が、大きな声でむかえてくれました。わたしが話す声を聞いて、とてもうれしくなって、くさりをこわしそうなくらい、わたしにとびかかろうとしていました。
その年にすごしたクリスマスは、それまでにも、それからあとにも、思い出せないくらい、すばらしいものでした。
おしまい。
かきうつした人からのお知らせ
会話のまわりのてんやまるなどのきごうは、正しく直しました。そのほかのてんやまるなどのきごうや、文字のつづりは、もとの本のとおりにしています。
さしえのいくつかは、もとのばしょから、だんらくのあいだにうつしました。えにかかれているばめんのすぐそばに、おけるように、がんばりました。
みぎがわにあるページばんごうは、ほんのページのしろくろのえにつながっています。もとのほんには、おおきなえのあとに、なにもかいていないページがあります。えのファイルのサイズをちいさくするために、なにもかいていないページも、おおきなカラーのえのしろくろのコピーも、ここにはいれていません。
